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◆ニュージーランドで体験した悲惨なクリスマスとは!

 ニュージーランドの南島クライストチャーチでやっと仕事を見つけて、「世界一美しい散歩道」といわれている「ミルフォードトラック」の玄関口テアナウのデパートで働いていた頃の話である。

 クリスマスイブの朝、牧場へ冷凍庫を副社長のジョージとバンで運ぶことになった。このデパートは社長夫妻と副社長のジョージ、ニュージーランドの女性従業員が3名、残りはノル―ウェー、イギリス、マレーシア出身の3名の女性従業員だった。そういうわけで荷物の重い運搬は副社長でありながらジョージと私の仕事と決まっていた。

 時速80キロで片道4時間の長旅である。テアナウの町はメインストリートがたった300メートル。それを抜けると遠くに見える山まで一本道が続く。脇には緑の小高い山の牧場が広がっていた。

 朝8時に出発して牧場に着いたのはお昼過ぎだった。お出迎えは今まで見たこともない数の羊の群れだった。その群れの中心からにょきっと牧場主が現れた。こぶのある背丈ほどある杖を右手に持って、牧羊犬を操って羊の群れをバンの前から外そうとするが、なかなか羊は言うことを聞かない。立派な角が生えた羊がバンを敵と思ったのか、羊突猛進してバンパーにあたってくる。

 ジョージはいつものことと心得て、クラクションを鳴らす。やっとのことで羊が道から外れて、小高い山の頂上の家までの道が開かれた。

 牧場主の指示に従って冷凍庫を冷蔵庫の横に設置した。この地域の家庭には冷蔵庫と冷凍庫がある。買い物をするところが遠いので肉は冷凍庫で貯蔵しているのだ。

 ひと仕事終えると彼はお昼にしょうと言ってカレーライスをふるまってくれた。肉はマトン。新鮮なマトンは日本で食べるのと違う。臭みがなくてとても美味しい。

 帰路に着いたのは夕方の5時を過ぎていた。ゴミ箱に冷凍庫の段ボールをたたんで入れてデパートの2階の家に帰宅した。

 クリスマス・イブの夜10時に友人に電話を掛ける約束をしていた。デパートの駐車場のところにある電話ボックスに行った。誰かが受話器をもって話し込んでいる。しばらく待っていようとそばのベンチに座っていた。そこに隣のパブからひとりの酔っぱらいの男が足元をふらつかせて出てきた。こちらを睨んでクリスマスに独りぼっちかと言って絡んできた。そのあとすぐにデパートの従業員の女性が男連れでまたドアから出てこようとした時、気まずい気持ちになってベンチを立って彼らに知られないように真っ暗な駐車場の方へ逃げた。

 そのうちにやっと電話ボックスに人がいなくなっていた。電話は安否を尋ねるくらいの些細な話ですぐに終わった。

 デパートの脇から階段を上って2階の家の玄関のドアの前に立って胸のポケットに入れてあるはずの鍵を捜したが、ない。鍵がない。ズボンのポケットにも手を突っ込んでみてもない。鍵をどこかに落としてしまったのだ。

 仕方なく。2階の玄関から駐車場、電話ボックス、パブの隣のベンチのところをくまなく探した。夜11時を過ぎて街灯も暗くて捜すのも困難になった。どうしょう。明日の朝も仕事は8時からだ。今日の疲れで眠たい。覚悟を決めて2階の玄関先で寝ることにした。

 脳裏に浮かんだのは新宿のホームレスが利用している段ボールだ。今日はたまたま冷凍庫から出たのがある。1階のゴミ箱の中から段ボールを引き抜いて2階の玄関先に上げた。段ボールの上にごろんと寝てみた。上に羽織るものがないと寒い。デパートの二階には時間と気温が表示される電光掲示板があった。時刻は11時30分。気温5度。空には満天の星。吐く息は白い。

 南半球のニュージランドのクリスマスは真夏である。真夏であってもテアナウのあるサウスランド地方は夜は5度になる。昼間でも25度を超えると皆、金魚のように口をパクパクさせて今日は暑いというのである。

 そうだ、新宿のホームレスは体に新聞を巻いて寝ていた。やってみよう。またゴミ箱から新聞とビニールを取り出して巻いて寝た。羽織るものがあると随分違う。暖かくなって眠りについた。

 寝返りをうつと段ボールを敷いているとはいえ、下はむき出しのコンクリートで硬くて冷たい。寝返りをうつ30分おきに目が覚める。時計は2時を示していた。

 メインストリートをパトカーが赤色灯を回して巡回しているのが見えた。今、声を掛ければ、保護してもらって暖かいところで寝られるかもしれない。ぼんやりした頭で考えたが、明日の朝、ジョージの笑い顔が浮かんだ。

 ジョージは40年前、19歳で友人の勧めでデンマークからニュージーランドに移民した。その頃テアナウの町は10戸足らずの町だった。電気も水道もないこの町で自給自足の生活で農地を切り開いたのだ。

 オークランドのような都市になぜ行かなかったのかと訊いたことがあった。彼はトゥービッグと言った。大きな町では大きすぎて面白くないと言ったのだ。

 こんな開拓魂にあふれる男を尊敬していた。そのジョージから見れば、一夜、玄関先で寝たぐらいで、警官を呼び止めるとは物笑いの種になると思ったのだ。パトカーの赤色灯は瞬く間に暗い闇の中に消えていった。

 もういい。朝までここで寝ていよう。時計は5時を示していた。徐々に東の空が明るくなってきた。鍵が見つかるのではないか。少しでも暖かいベッドで寝たい。階段を下って、また昨夜歩き回ったところを捜し始めた。

 電話ボックスの台の上、下にはない。電話を待って座っていたベンチの上にはない。下。あった。ベンチの座席の下にあった。しゃがんだ時に胸のポケットから落ちて、座席の間から下の地面に落ちていたのだ。銀色の鍵。やっと見つけた。そっとつかんで昇る太陽にかざしたら、鍵はピカット光った。思わずMerry Christmasと声が出た。

 異国の地であろうことか段ボールでクリスマスの夜に寝ることになった話だが、この話に感動した塾生が九州大学を1年間休学して、ニュージーランドの高校生に日本語を教える奨学金を得た。卒業後は放送局に入って、現在は世界各地を取材する国際部にいる。クリスマスの夜。毎年このことは思い出す出来事になっている。

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