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◆西オーストラリア留学体験記
久しぶりに西オーストラリア、ロットネスト島ののビデオを見ていたら、いろいろのことがよみがえってきた。この島には格別の思い出がある。
友人のQちゃんが「水と米だけでロットネスト島に3泊4日行きませんか」というのである。「大義名分は豊かな生活に慣れた現代人が、最低限の食料だけをもってどれだけ耐えられるか」というものだったが。彼の大義はともかく面白そうということで、即決して行くことにした。
時期は2月、オーストラリアの真夏である。気温は40℃まで上がる。朝、フリーマントルから船で30分、インド洋に浮かぶ島に向かう。雲ひとつない快晴。真っ青の海と空が広がっている。二人とも洋上の、観光客の賑やかな会話と歌声に意気揚々と上陸。
レンタルの自転車を調達し島内めぐりがはじまった。彼の計画では海で魚、貝を収穫して鍋で炊いた飯と一緒に頂くというものだった。それにしては二人の装備は、台所で使うゴム手袋と水中メガネ、シュノーケリングである。観光客が浜辺でパラソルを広げて、リラックスして寝ている中、今日の食糧を得るためひたすら海に潜った。
昼食もとらずに夕方になった。顔はほてって、ぬぐっても、ぬぐっても吹き出る汗。手はふやけて、しわしわ。体はだるい。島を半周したが、遠い浅瀬の海岸が多く、魚、貝は皆目いない。
「今日の夕飯はご飯だけですか」Qちゃんの情けない声が出た。
「これを食べるか」と僕が言う。食べられるかどうかわからなかったが、4個の巻き貝をバーベキューの鉄板の上にのっけた。あたりはオーストラリア人の宴会がはじまって、鉄板にのった分厚い肉を焼く音とにおいが漂っていた。
宴会の終わった、酔っぱらいのオーストラリア人が僕たちの夕食を見にきた。「この貝は毒が入っているぞ」「ビールに肉もあるから宴会に加われ」とさそう。ふたりの意志は固い。断固拒否して、やせがまんをした。夕食は灰のかぶった半煮えのご飯だけとなった。
灰のかぶった半煮えのごはん。灰を取り除きながら、箸でご飯をすする。一日の疲れも出て、途中で食べる気も失せた。オーストラリア人の宴は最高潮のようで、こちらの宴とは対照的だった。
「Qちゃん寝るか」
「まだ8時ですよ」
「やることないしね。俺は寝るよ」とそっけなく言った。
テントに、もぐり込んだ。寝袋の中には入らず、クッション代わりに下に敷いた。背中が火ぶくれしているのか、仰向けには寝られない。空腹と宴会の歌声が酔いで、さらに大きくなって、なかなか寝つけなかった。
耳元でガサゴソする音で眠りから覚めた。
「何時だ。Qちゃん何してる」
返事がない。ガサゴソ、ガサゴソが二重奏になった。寝ぼけ眼で音のする方に手を差し伸ばしてみた。何か生暖かいものが手に触れた。テント内には灯りはない。木につるされた外灯で、テントに何か飛び跳ねるもののシルエットをみた。
「Qちゃん起きろ。大変なことになっている」
敵は生物で、シルエットで見る限り、背丈50cmぐらいはある。恐る恐る腹ばいになってテントを出た。そこには大きなネズミが20頭。枯れ石庭の岩のようにじっとしていた。中には飛び跳ねている者もいた。テントから持ち出した米のビニール袋が引きちぎられて、薄暗い外灯の下で、米がうっすら光って見えた。
周りの状況がわかって、Qちゃんと手分けして米を回収することにした。1頭のそばにあった米の袋を拾おうと手を伸ばしたら、赤く光った眼で口をあけて威嚇してきた。人間と巨大ネズミの真夜中の格闘が、かくしてはじまった。
相手もせっかくの収獲物を取られそうになって、牙をむく。それではと、こちらも友好的な戦法に変えた。Qちゃんがネズミの気を引いて少量のエサをあたえ、僕がネズミの動いた隙に米の袋を頂く戦法だ。これはうまくいった。そんなこんなで真夜中の格闘30分。やっと米の3分の1を回収できた。
*巨大ネズミはロットネス島だけに生息するクオッカと判明。
鼻をくすぐるコンソメスープのにおい。Qちゃんが感心なことに早起きして朝食の支度をしているのか。木洩れ日がまぶたにあたって、やっと起きる気になった。
「Qちゃん、今、何時」
「もう9時になりますよ」
食事して出かけねばと言いかけたところ、Qちゃんが支度していたのは、ただのお湯を沸かしているだけだったことに気がついた。匂いは隣のテントから漂ってきたもの。真夜中の悪夢は、やっぱり本当だったのだ。残りの米の袋をみて、ため息が出た。
「Qちゃん、飯、食わずに行こう。午前中までが勝負だ」。
自転車のペダルが、やけに重い。今日は島のあとの半分の切り立った崖を廻るコースである。最初のポイントは、30mほどある断崖絶壁の下にある入り江である。砂浜と違って遊泳客は全くいない。やっとの思いで、崖下までたどり着いた。驚いたことに砂浜などなく、平泳ぎ5かきで水深20mほどのドロップオフになっていて、外洋につながっている。
Qちゃんが、まず潜った。こちらは固唾を呑む心境だが、固唾もでない、カラカラだ。Qちゃんはひと泳ぎしたあと、岩礁をつたいながら、浜から10mほどの岩の上に立ちあがった。
「ぎょうさん、サザエがいますよ」
笑顔でピンクのビニール手袋をつけた右手を振った。お土産はプラスチックバッグに拳ほどの大きさのサザエが4個。大収穫。これで何とか食にありつける。
今度は自分の番だ。岩礁に囲まれた方の海に飛び込んだ。眼前に広がる竜宮城の世界。水面近くには黄色や緑や朱色の熱帯魚。水深10m近くには、ゆうに全長1mはある魚の群れが2方向、3方向から自分の周りを回遊している。水族館に行ってもこんな光景はお目にかかったことがないほどの魚だ。岩礁についているアワビを発見。なかなか吸盤が強くて取れなかったが、3回ほどの息継ぎをして収穫。
昼前には、二人でとったサザエとアワビをバーベキュー用の鉄板で焼いた。醤油があれば最高だったかもしれないが、インド洋の海水で十分な味だった。この味はいまだに忘れられない味になっている。
教訓:何事をするにも段取りが大切。
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